大災害の時代を乗り切るための新たなアプローチ

「わざわい」または「さい」と読む「災」という字が、2018 年の「今年の漢字」に選ばれたことには相応の理由があります。「disaster(災害)」や「misfortune(災難)」の意味を持つこの言葉は、数々の自然災害や異常気象に見舞われた日本の厳しい1年を象徴するものでした。

6月18日、マグニチュード 6.1 の地震が日本の第2の都市圏である大阪を襲い、被害は主要交通機関の麻痺、住宅やビルの損壊など広範囲におよびました。7 月初めには、西日本の中国・四国地方で集中豪雨が発生。岡山、広島、愛媛の各県に甚大な被害をもたらし、洪水により数万人が避難を余儀なくされました。その後、7 月終わりから 8 月にかけて続いた猛暑により、熱中症のため130人が死亡し、5 万 5,000 人以上が搬送される事態となりました。

さらには、これら度重なる災害に追い打ちをかけるように、9 月初め、25 年ぶりに強い勢力で日本に上陸した台風 21 号(チェービー)が、6 月の地震被害の復旧半ばにあった京都、神戸、大阪を襲ったのです。また、その直後には、マグニチュード 6.7 の地震が北海道で発生。震源地に近い苫東厚真火力発電所が停止し、北海道全域で 290 万世帯が停電。戦後日本で 10 電力会社体制が導入されて以来初めて、管内のほぼ全域で電力が停止する大規模なブラックアウトが起きてしまいました。

9 月末には台風 24 号(チャーミー)が最大風速、最大瞬間風速記録を各地で更新し、25 億米ドルを超える損害をもたらしました1

数字で振り返る 2018 年

2018 年には、全世界で合計 304 件の災害が発生し、そのうち 181 件は自然災害、123 件は人災でした。304 件の災害のうち 104 件はアジアで発生しています。アジアは「環太平洋火山帯」付近に位置する地域であり、全地震の 90% 超がこの地域に集中して発生しているのです。最新のシグマ調査によると、自然災害と人災による経済的損害累計額は 1,650 億米ドルで、そのうち 850 億米ドルが保険で補償されています。その結果、2018 年は世界の保険損害額が史上 4 番目に多い 1 年となりました。アジアにおける経済的損害累計額は 550 億米ドル、同地域の保険損害額は 200 億米ドルにのぼりましたが、日本だけでそのうち 170 億米ドルの損害が発生しています。

こうした自然災害が頻発する日本では、災害対策や被害を軽減するレジリエンスの文化と取組みが発展してきました。災害に対応するために、日本政府は国民のレジリエンス向上をさらに重視しています。保険業界も、有事においては損害の評価、保険金支払等により迅速な復旧支援を行う災害対策チームを組織し、これに呼応しております。

しかし、日本の 2018 年は、頻繁な災害が都市社会に及ぼす深刻な影響を浮き彫りにしました。世界的レベルのインフラとハイテク警報システムへの投資は、損害の軽減と保険金支払額の減少に寄与しましたが、こうした災害の頻発により、日本をはじめ非常に強固な経済の真価が問われています。

さらに深刻な事態に備える

気候変動の影響により、世界的に山火事や干ばつ、熱帯性低気圧などの異常気象がより頻繁に発生することが予想されます。さらに、人口の増加、急速な都市化、沿岸地域への移住、異常気象に晒される地域への資産の集中は、乗数効果により損害を拡大させます。

例えば、日本では集中豪雨の発生頻度が高まっています。1 時間に 80mm 以上の集中豪雨の年間平均発生数は、1976 ~ 1985年は 11 回でしたが、直近の 10 年間では 18 回に増加しています。こうした傾向は、荒川流域の海抜ゼロメートル地帯に 150 万人の人口を抱える東京のような大都市の脆弱性を浮き彫りにしています2

スイス・リーの 2017 年と 2018 年のシグマ調査によれば、支払われた保険金の半分以上が自然災害への対応を目的としていたことを明らかにしています。もっとも、この 2 年間の自然災害関連による経済的損害累計額は 4,970 億米ドルであり、付保されていたのはそのうちの 2,190 億米ドル。自然災害関連の保険補償ギャップは、実に 2,800 億米ドルに達しているとしております。自然災害の保険付保不足は、いまだに世界中で課題となっています。

災害頻度と影響の深刻度がますます高まる一方、保険の普及率を上げるためにできることはまだあるでしょう。保険市場が確立している各国でも、中小企業には依然として大きなエクスポージャー・ギャップが存在している可能性があります。

国内の商工業基盤の99%を占める日本の中小企業は、2018年の数々の自然災害により、多額の無保険損害を被ったものと思料します。昨年の 11 月、中小企業庁はレジリエンスの促進を目的とした中小企業強靭化研究会を設置し、そのイニシアチブの一環として保険普及率の向上に重点を置いています。中小企業庁は、独立行政法人経済産業研究所 (RIETI) が 2015 年に実施した調査結果における中小企業の保険加入率 47% という数字を参照するとともに、中小企業の保険加入状況は「必ずしも十分ではない」という見解を示しています3

補償ギャップを埋めるにはキャパシティだけでは不十分です。グローバルな再/保険業界は、自然災害のリスクを引き受ける十分なキャパシティを確保しています。スイス・リー・インスティテュートの概算によると、損害保険・再保険キャパシティは 2 兆米ドル以上となっていますが、過去2年間で損害の補償のために使われた額はわずか 11% にとどまっています。保険普及率を引き上げて、気候変動の影響を緩和する適切な措置を講じることがますます重要になってきています。

テクノロジーが将来への備えの鍵となる

過去のデータに基づく保険ソリューションは、これまでは十分に機能してきました。しかし、都市化と気候変動が進む世界においては、その限りではないかもしれません。2018 年の台風 21 号(チェービー)で、気象庁は大阪市内の観測地点での最大瞬間風速を 47.4m と発表しましたが、最近の京都大学のシミュレーションで、大阪市街地の複数の高層ビルが風の渦を発生させたことが判明し、このため場所によっては瞬間的に最大風速が秒速60~70mに達し、その影響や損害は増大したと思われます4 。また、台風により発生した高波と高潮が関西国際空港に甚大な被害をもたらし、すべての空港業務が停止しました。さらには、2,591 トンの船舶が流されて橋に衝突し、空港のある島と大阪本土をつなぐ唯一の接続ポイントが分断され、7,800 人が空港に取り残されたのです。他にも、台風21号により大阪と近隣各県の220万世帯で停電が発生しました。

日本が 2018 年に経験した災害は、保険会社の事故対応においても重要な課題を浮き彫りにしています。保険会社が国内の複数拠点で対策チームを発足させ、頻繁に発生する災害への対応に努める中で、適切な損害評価や保険金支払を履行するために膨大なマンパワーとリソースが必要となりました。業界は、膨大なリソースの課題を克服し、頻繁に発生する自然災害や、南海トラフ地震や首都直下型地震といった大規模災害への準備を強化するための新たな対策を必要としています。

強度および頻度に基づくモデルによりリスクを管理するアプローチは、気候変動が都市社会に与える影響に対するレジリエンスを強化するために必要でしょう。さらに、有事のデータ収集、損害評価、保険金支払の実行を強化するテクノロジーの開発、導入も求められます。衛星画像、ドローン、プロセス自動化は急速にデジタル化が進む世界で既に実用化されているテクノロジーであり、リアルタイムでの損害評価および保険金請求管理の効率を最適化し、膨大なリソース需要を軽減するといった効果を発揮しています。

保険業界にとっては、成長とともに、人々が災害被害に備える手助けとなることができるチャンスです。そのためには、人々の意識を高めて、災害の補償に関するより優れた商品ラインナップを開発し、販売する必要があるでしょう。頻発する災害の性質を考慮した補償の提供は、お客様が保険の価値に気づくきっかけとなります。暴風や洪水など、異常気象に関連する災害にかかる保険ソリューションは、補償ギャップを埋める可能性も秘めているのです。

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