A vibrant purple neon-lit tunnel with artistic laser lights, a car silhouette, and glowing flares creating futuristic graphics.

2026年の日本の保険市場

続くインフレ、金利の上昇、ボラティリティの高まりへの対応

世界的な分断が深まり、AIを背景とした設備投資の大幅な拡大が進む中、日本では高インフレ・高金利環境への移行が進んでおり、保険会社に新たな機会と課題をもたらしています。こうした環境は、一般的に保険の需要と投資収益にとって追い風となる一方、保険金支払コストが増加し、市場のボラティリティが高まり、資産・負債管理(ALM)をより難しくする原因にもなります。当社はエネルギー供給ショックの影響によって経済全体の成長率が約0.5~0.6%に鈍化すると予測しています。これに伴い、2026年の保険料収入の伸びは、損害保険と生命保険ともに実質0.3%程度に減速すると見込んでいます。損害保険では、主要な保険種目の成長にばらつきがみられます。なかでも賠償責任保険は、企業による投資、技術革新、経済構造変化の恩恵を受けて最も堅調な成長(4~5%)が予想される一方、建設費と人件費の高騰が保険金支払コストを押し上げています。生命保険では、利回りの上昇が貯蓄型保険の需要と投資収益を支えているものの、失効リスクと解約リスクも高まっています。より広い視点から見ると、世界では供給ショックの頻発や地政学的混乱、金融市場のボラティリティ上昇を背景に、慎重な資産配分、流動性管理、資本計画の重要性が一段と高まっています。

日本のマクロ経済見通し:供給ショック、AIブーム、インフレリスク、財政懸念

世界では分断や度重なる供給ショック、そして金利が高止まりする状況が続いています。一方、日本国内では数十年にわたる低インフレと超緩和的な金融政策を経て物価と賃金が上昇し、金融政策の正常化が進む局面へと移行しています。2026年上半期における最大の懸念材料となった中東情勢は、エネルギーの輸入依存度が高く、交易条件の悪化による影響を受けやすい日本にとって、成長への明確な逆風となりました。3月以降の経済指標によれば、特に石油化学業界で設備稼働率が低下しているほか、納期の遅れに加え、受注残も増加しています。当社は、日本の実質GDP成長率が2026年に約0.5~0.6%へ減速した後、2027年以降は長期的なトレンドである0.8~1%程度まで回復すると予想しています1。しかし、こうした下押し圧力を和らげる要因もいくつかあります。省力化に向けた投資とグローバルなAI関連需要は、テクノロジー・セクターを中心に、鉱工業生産、輸出、設備投資を支えているとみられます(図1)。過去の供給ショック時に比べ、コスト上昇分を価格に転嫁しやすくなっていることが、企業の収益と設備投資の下支えとなっています。一方、堅調な賃上げと支援的な財政政策が、引き続き家計所得を支えています。

重要なのは、日本では生産者物価の上昇によるコストプッシュ型のインフレショックが発生しており、賃金上昇の物価への転嫁が国内で徐々に強まっていることでインフレ圧力がさらに強まっている点です。2022年以降、慢性的な人手不足に加え、インフレ期待の高まりによって賃金上昇が加速しています。これは、数十年にわたる超低インフレを経た日本経済における、マクロ経済上の最も大きな変化の一つです。直近のエネルギー価格の急騰は、短期的には実質所得の伸びを抑制していますが、企業がコストの増加分を販売価格に転嫁する動きを加速させる要因ともなっています。これにより、より持続的なインフレ環境が定着し、インフレ率が日本銀行の物価安定目標である2%を上回る可能性があります。特に、生産者物価のデータでは、輸送と建設にかかるコストの伸びが顕著に加速していることが示されています(図2)。また、6月の日銀短観でも、企業が予想する1年後の販売価格上昇率が、昨年12月の2.8%上昇から3.7%へと大きく上昇しました。総合CPIとコアCPIの上昇率は、前年の物価水準との比較によるベース効果、政府の臨時措置、エネルギー補助金によって、比較的緩やかな水準にとどまりました。しかし、エネルギーコストの上昇は、2026年下半期には消費者物価に波及するとみられます。世界の食品価格も、肥料不足や、エルニーニョのリスクによって上昇しています。総合CPIは年末にかけて3%を超える可能性が高く、その後、2027年には2%程度に落ち着くと見込まれます。

底堅い経済成長とインフレ圧力の高まりを背景に、金融政策の正常化が引き続き進んでいます。当社は、2027年末までに2~3回の追加利上げが実施され、政策金利は1.5~1.75%に達すると予想しています。より厳しいシナリオでは、インフレ率が目標を上回る状態が長期化し、政策金利の最終到達水準がさらに高くなる可能性があります。構造的な円安が続いており、輸出とグローバル企業の海外収益を押し上げる一方、輸入物価の上昇を通じて、家計と中小企業の実質所得を圧迫しています。そのため、日本銀行の金融政策の判断において、為替レートの動向がますます重要な要素となっています。

一方、長期日本国債利回りは急上昇し、1990年代終盤以来の水準に達しています。その背景には、予想政策金利の変化よりも、インフレ期待の高まりや財政悪化への懸念を反映したリスクプレミアムの拡大があります。市場では、補正予算、エネルギー補助金、減税、そして公的年金基金による海外資産の国内への資産還流の可能性にこれまで以上に注目が集まっています。日本の政府債務残高の対GDP比率は、名目GDPの力強い成長によって低下してきましたが、金利が高い状態が長期化すれば、再び上昇に転じる可能性があります。その結果、財政の持続可能性は、金融市場にとって最も重要なマクロ経済要因の一つとなっています。リスクとして懸念されるのは、借入コストの上昇が財政状況を悪化させ、それによって投資家が国債により高い利回りを求め(タームプレミアムの拡大)、国債利回りに一段の上昇圧力がかかるという悪循環です。

損害保険:保険種目ごとのばらつきが広がる中、成長が鈍化

損害保険では、主要な保険種目の成長率に大きなばらつきが予想されています(図3)。賠償責任保険は、ガバナンスの複雑化とテクノロジー関連リスクの高まりに伴い、年率4~5%の堅調な拡大が見込まれます。財物保険の実質保険料の成長率は2024~2025年の例外的な高水準から低下し、1~2%に減速するとみられます。また、建設費が高騰する中で、1件当たりの保険金支払額も上昇しています。一方、自動車保険と傷害保険の需要は、高齢化の影響により低迷が続くとみています。全体として、2026年の日本の損害保険市場における実質保険料は0.3%増加し、2027年以降は長期平均の約0.6~0.9%の成長率に回帰し、日本の実質GDP成長率を若干下回る見通しです。

日本の元受損害保険市場は、世界的な保険料の軟化局面において、顕著な例外となっています。2026年第1四半期、財物保険料と賠償責任保険料はいずれも3%上昇しました。これは、Marsh社の企業保険指数が世界全体で前年同期比5%低下したのとは対照的です2。個人向けの保険料も総じて底堅く推移しています。当社は、今年後半には損害実績の改善や世界的な再保険市場の軟化を背景に、特に財物保険で保険料率が軟化すると予想していました。しかし、中東情勢を受けてインフレ圧力が改めて高まったことで、保険料の低下は、従来の予想よりも小幅で緩やかなものになるとみられます。

賠償責任保険(損害保険全体の8%)は、企業のリスク意識の向上、ガバナンスとコンプライアンスに関する要求の強化3、さらに高付加価値で技術集約的な産業への移行によって、今後数年間にわたって年率4~5%の比較的堅調なペースで成長することが予想されます。日本企業が先進的な製造分野や自動化、AI、半導体、再生可能エネルギー、海外事業への投資を拡大するにつれ、事業運営、製品、環境、サイバーに関連する賠償責任リスクも複雑さを増しています。賠償責任保険は、人口動態やエネルギーショックの影響を比較的受けにくく、むしろ企業の設備投資、技術革新、経済の構造的変化とより密接に関連しています。

財物保険は日本で2番目に大きい保険種目(損害保険料収入全体の22%)であり、安定したエクスポージャーの拡大と自然災害リスクを反映した保険料率の見直しに支えられ、過去10年間で比較的高い成長を遂げてきた損害保険分野の一つです。近年は自然災害による損害が比較的軽微であったことに加え、保険料率の大幅な引き上げと、損害率の低下が保険引受の収益性向上に寄与しました(図4)。上記の要因に加え、再保険市場の世界的な軟化もあり、保険料のさらなる大幅な上昇の余地は限られています。日本企業の設備投資は、米国とは異なり、大規模なハイパースケール・インフラやデータセンターの建設よりも、企業のデジタル化、ソフトウェアの導入、既存の産業設備の高度化に、より集中しているとみられます。そのため、財物保険の新たな需要拡大は限定的となる可能性があります。当社は、財物保険料収入の実質成長率が2024年と2025年の例外的に高い水準(年平均4.6%)から2026年には約1~2%に鈍化すると予想しています。しかし、現在、エネルギー価格の上昇が建設コストに波及しているため、1件当たりの保険金支払額が高まる可能性があります。

損害保険市場の約50%を占める自動車保険事業は、保険料率の上昇にもかかわらず、今年と来年の保険料収入は実質ベースでさらに減少する(年平均-0.3%)と予想されています。高齢化と人口減少は、自動車所有台数とエクスポージャーの拡大を抑制しています(図5)。そのため、保険料収入の伸びは、契約件数の増加よりも規律ある引受と保険料設定にますます左右されるようになっており、それが日本の保険料収入全体の成長の構造的な下押し要因となっています。日本の電気自動車と自動運転車の普及率は他の主要市場に比べて低く、これらへの移行が短期的に自動車保険市場に与える影響は小さいとみられます。

同様に、傷害保険も人口動態による逆風によって構造的に成長が抑制されています。傷害保険が市場に占める割合は、過去20年間で17%から11%に低下しています。当社は引き続き、中長期的に年間保険料収入の実質成長率が緩やかに低下すると予想しています。

損害保険の収益性:運用面の追い風と引受課題の増加

当社は、日本の損害保険の収益性が、2024年と2025年の極めて高い水準から、2026年と2027年にかけて徐々に低下すると予想しています(図6)。建設コストをはじめとする物価や賃金の上昇によって、主要な損害保険種目とスペシャルティ保険種目における1件当たりの保険金支払額が増加し、保険引受環境はより厳しいものになると予想されます。運用実績は引き続き、堅調な業績の下支えとなるでしょう。国内外の金利上昇によって、日本の再投資利回りは改善しています。長引く円安も海外利益の円換算額を大幅に押し上げています。この円安によるプラス効果は、特に日本の大手損害保険グループに大きな恩恵をもたらしています。こうしたグループでは、事業のグローバル化が進み、海外事業がグループ全体の収益の大きな割合を占めるようになっています。大手保険会社が公表した資本管理計画に基づき、政策保有株式の縮減が進められており、それによる追加的な収益の押し上げ効果は、2020年代末まで引き続き、運用収益を支える重要な要因になると見込まれます。しかし、運用面での追い風があるものの、資産運用をめぐる課題も次第に増えています。

経済および金融市場のボラティリティの高まりは、今後の見通しに対する主要なリスクです。地政学的緊張と繰り返される供給ショックによって、金利、為替レート、信用市場をめぐる不透明感が高まっているため、運用実績は従来よりも大幅に変動する可能性があります。特に、海外資産や海外事業からの収益がグループ全体の収益性に占める割合が高まる中、慎重な資産・負債管理とリスクを勘案した資本配分の重要性が一段と高まっています。

生命保険:家計の貯蓄需要が人口の縮小を相殺

当社は、生命保険料収入の実質成長率が2026年に0.3%へ低下した後(2025年:0.9%)、長期平均の約0.7~0.9%に落ち着くと予想しています(図7)。全体的な商品構成は、貯蓄性商品へとシフトしています。貯蓄性商品は日本の生命保険市場を牽引する原動力であり、当社はこの状況が高金利環境を背景に、今後もこの傾向が続くと予想しています。これを一部相殺する形で、保障性商品事業は人口動態の影響により成長が抑えられており、死亡保障関連の商品も比較的低い成長にとどまると予想しています。

日本の生命保険は、2022年以降、貯蓄性商品主導の成長サイクルが続いています。金利の構造的な上昇、賃金の伸び、そして退職後の資金準備、資産保全、相続対策4ソリューションの需要の高まりが、貯蓄性商品の販売を引き続き下支えする見込みです。さらに、マクロ経済と金融市場の不確実性が強まり、家計が将来へ向けた経済的な安心をより重視するようになっていることも後押しになるでしょう。日本の生命保険市場は10年以上にわたってほぼゼロ成長が続いていましたが、貯蓄性商品の需要に牽引され、世界的な利上げ局面にあった2022年と2023年には、保険料収入の実質成長率は(年平均)9.4%と、2年間にわたり例外的に高い成長を遂げました。しかし、この勢いは2024年に鈍化しました。その要因としては、それまでの販売額の急増によるベース効果や、拡充されたNISAプログラム5などの他の投資手段との競争が激化したことが考えられます。こうした動きは、貯蓄性商品を中心とする事業が景気循環の影響を受けやすく、成長に波があることを示しています。成長率は2025年に回復しましたが、その成長は貯蓄性商品事業に集中しています。そのため、他の投資手段と比較した 収益の変化に応じて顧客の選好が変わることで、保険会社は需要変動や潜在的な失効リスクの影響を受けやすくなる可能性があります(図8)。

保障性商品は人口動態の影響により成長が抑えられており、当社は死亡保障関連の商品についても、引き続き比較的低い成長にとどまると予想しています。日本の総人口は10年以上にわたって減少しており、伝統的死亡リスクプール(従来の死亡保障の対象となる人口)の拡大も抑えられています。人口の高齢化は、医療、介護および長寿関連ソリューションに長期的な事業機会をもたらすと考えられますが、日本の包括的な公的医療、年金および長期介護制度は、現在の関連需要の多くをカバーしています。そのため、新たな需要が発生しつつあるものの、民間保障がより大きな役割を果たしている市場のような保険料の伸びには、まだつながっていません。

生命保険の収益性:市場のボラティリティが上昇する中での堅実な資産運用

生命保険セグメントの収益性は、金融市場のボラティリティの高まりという課題に直面している一方、高金利環境における運用益の改善に引き続きに支えら れるとみられます(図9)。日本の生命保険会社は、従来の低利回り資産から、より高い利回りの国内外の投資資産への入れ替えを徐々に 進めています。保険料収入の伸びが回復し、解約の動きが鈍化したことから、2025年の保険引受実績は改善しました。日本の新たな経済価値ベースのソルベンシー規制(J-ICS)への移行に伴い、再保険は、複数ある資本管理ツールの一つとして重要性を増す可能性があります。また、日本の大手生命保険会社は、米国、オーストラリア、欧州を中心に、買収や戦略的パートナーシップを通じて海外事業の多角化を引き続き進めています。これにより、成熟した国内市場への依存度を低下させるとともに、収益成長の源泉を拡大しています。

今後、日本の財政の長期的な持続可能性に対する懸念から金融市場のボラティリティが高まれば、失効リスクと解約リスクが再び高まり、資産・負債管理をめぐる課題が増える可能性があります。生命保険会社は通常、長期国債を保有していますが、金利の急上昇によってその市場価値は大幅に低下し、多くの保険会社が多額の含み損を抱えています。仮に失効率が高い水準にあり、保険会社が必要な流動性を確保するために債券の売却を余儀なくされた場合、これらの含み損が実現損となり、利益と収益性に直接的な打撃を与えることとなります。

今後の見通し

高インフレ・高金利の環境は、一般的に保険料収入と投資収益を下支えする一方、保険金支払コストのインフレ圧力や市場のボラティリティを高め、資産・負債管理上の課題を増大させます。損害保険会社にとっての主な懸念事項は、1件当たりの保険金支払額の上昇であり、生命保険会社にとっての懸念は、インフレが長期化し、金融政策の正常化が進む中で、失効・解約リスクと投資市場のボラティリティが上昇することです。

より広い視点から見ると、供給ショックの頻発、地政学的混乱、金融市場のボラティリティ上昇を特徴とする世界において、慎重な資産配分、流動性管理、資本計画の重要性が増しています。利回りの上昇が引き続き収益を下支えするものの、今後の長期的な収益性は、低金利時代よりも複雑化した投資環境に、保険会社がいかに適切に対処できるかにますます左右されるようになるでしょう。

Further Information

注記と参考文献

1 長期的には、日本の成長力は、生産性の伸び悩み、人口動態上の逆風、国内需要のモメンタムの弱さによって依然として抑制されています。

2 2026年第1四半期のアジアの保険料率、Marsh Risk Hong Kong S.A.R.、2026年。

3 日本では、賠償責任保険における超過インフレ(社会的インフレ)の影響は比較的限られており、賠償責任保険の成長は、訴訟に起因する保険金支払額のインフレによるものではありません。

4 日本では、生命保険の死亡保険金は受取人(通常は配偶者か子)に直接支払われます。これにより、相続人は相続税やその他の相続関連に必要な資金を速やかに確保できます。日本では人口の高齢化が進み、資産継承や相続対策への関心が高まる中、こうした生命保険商品の需要も高まっています。

5 NISA(少額投資非課税制度)は個人が対象となる株式や投資信託に投資する際、売却益や配当・分配金が非課税となる日本の税制優遇制度で、家計の長期的な資産形成を促進するものです。2024年1月には制度が大幅に拡充され、年間投資枠が引き上げられるとともに、非課税保有期間が無期限化されました。

著者