損害保険では、主要な保険種目の成長率に大きなばらつきが予想されています(図3)。賠償責任保険は、ガバナンスの複雑化とテクノロジー関連リスクの高まりに伴い、年率4~5%の堅調な拡大が見込まれます。財物保険の実質保険料の成長率は2024~2025年の例外的な高水準から低下し、1~2%に減速するとみられます。また、建設費が高騰する中で、1件当たりの保険金支払額も上昇しています。一方、自動車保険と傷害保険の需要は、高齢化の影響により低迷が続くとみています。全体として、2026年の日本の損害保険市場における実質保険料は0.3%増加し、2027年以降は長期平均の約0.6~0.9%の成長率に回帰し、日本の実質GDP成長率を若干下回る見通しです。
日本の元受損害保険市場は、世界的な保険料の軟化局面において、顕著な例外となっています。2026年第1四半期、財物保険料と賠償責任保険料はいずれも3%上昇しました。これは、Marsh社の企業保険指数が世界全体で前年同期比5%低下したのとは対照的です2。個人向けの保険料も総じて底堅く推移しています。当社は、今年後半には損害実績の改善や世界的な再保険市場の軟化を背景に、特に財物保険で保険料率が軟化すると予想していました。しかし、中東情勢を受けてインフレ圧力が改めて高まったことで、保険料の低下は、従来の予想よりも小幅で緩やかなものになるとみられます。
賠償責任保険(損害保険全体の8%)は、企業のリスク意識の向上、ガバナンスとコンプライアンスに関する要求の強化3、さらに高付加価値で技術集約的な産業への移行によって、今後数年間にわたって年率4~5%の比較的堅調なペースで成長することが予想されます。日本企業が先進的な製造分野や自動化、AI、半導体、再生可能エネルギー、海外事業への投資を拡大するにつれ、事業運営、製品、環境、サイバーに関連する賠償責任リスクも複雑さを増しています。賠償責任保険は、人口動態やエネルギーショックの影響を比較的受けにくく、むしろ企業の設備投資、技術革新、経済の構造的変化とより密接に関連しています。
財物保険は日本で2番目に大きい保険種目(損害保険料収入全体の22%)であり、安定したエクスポージャーの拡大と自然災害リスクを反映した保険料率の見直しに支えられ、過去10年間で比較的高い成長を遂げてきた損害保険分野の一つです。近年は自然災害による損害が比較的軽微であったことに加え、保険料率の大幅な引き上げと、損害率の低下が保険引受の収益性向上に寄与しました(図4)。上記の要因に加え、再保険市場の世界的な軟化もあり、保険料のさらなる大幅な上昇の余地は限られています。日本企業の設備投資は、米国とは異なり、大規模なハイパースケール・インフラやデータセンターの建設よりも、企業のデジタル化、ソフトウェアの導入、既存の産業設備の高度化に、より集中しているとみられます。そのため、財物保険の新たな需要拡大は限定的となる可能性があります。当社は、財物保険料収入の実質成長率が2024年と2025年の例外的に高い水準(年平均4.6%)から2026年には約1~2%に鈍化すると予想しています。しかし、現在、エネルギー価格の上昇が建設コストに波及しているため、1件当たりの保険金支払額が高まる可能性があります。
損害保険市場の約50%を占める自動車保険事業は、保険料率の上昇にもかかわらず、今年と来年の保険料収入は実質ベースでさらに減少する(年平均-0.3%)と予想されています。高齢化と人口減少は、自動車所有台数とエクスポージャーの拡大を抑制しています(図5)。そのため、保険料収入の伸びは、契約件数の増加よりも規律ある引受と保険料設定にますます左右されるようになっており、それが日本の保険料収入全体の成長の構造的な下押し要因となっています。日本の電気自動車と自動運転車の普及率は他の主要市場に比べて低く、これらへの移行が短期的に自動車保険市場に与える影響は小さいとみられます。
同様に、傷害保険も人口動態による逆風によって構造的に成長が抑制されています。傷害保険が市場に占める割合は、過去20年間で17%から11%に低下しています。当社は引き続き、中長期的に年間保険料収入の実質成長率が緩やかに低下すると予想しています。