3Dプリンター: 第3次産業革命となるのか?

コンピュータにデバイスを接続すれば子供の誕生日プレゼントのおもちゃや夕食のピザを製作できる、そんな将来を想像してみてください。そうした未来は『スタートレック』の場面をそのまま抜き出した世界でしかないように感じていたのに、3Dプリンティングはもう20年以上前から存在している技術だと聞けば驚かれる方もいるかもしれません。近年この技術は注目を集めてきており、新しいデジタル製造技術の可能性を示すとともに、一般消費者にも手の届くものとなってきています。
  
そもそも3Dプリンティングとは?
  
3Dプリンティングは「付加製造技術」とも呼ばれ、3次元の物体を造形するプロセスのことを指します。使用される素材は主にプラスチックですが、樹脂やセラミック、金属、チタンなどの素材も使用される場合があります。粉末またはジェルをベースとして用い、どのように製品を作り上げていくかの正確な指示はCAD(コンピュータ支援設計)ソフトから出されます。
  
3Dプリンティングの面白いところは、通常であれば非常に複雑すぎるものであっても、あらゆる形状、あるいは物全体を製作できるという点です。ところが、3Dプリンティングより製造工程に変化がもたらされ、製造業が崩壊してしまう可能性が指摘されています。3Dプリンティングは一見、製造コストの増加と捉えられるかもしれませんが、不要な在庫を抱えることに比べれば望ましい状況であるとも考えられます。つまり、サプライチェーンの柔軟性向上につながるのです。
  
3Dプリンティングは従来の製造業にあった無駄の多くを排除することができ、原材料を最大9割まで削減することができると見込まれています。堅実なメーカーがこの技術を採用すれば、消費する原材料が削減される上、結果的に生産工程の高速化にもつながります。さらに物流も不要となることから、製造ユニットが「沈黙の工場」と変化する可能性もあります。
  
3Dプリンティングはどのようにモノづくりをするのか?
  
2014年、生まれつき左手の指がなかった当時5歳のヘイリー・フレイザーちゃんは、英国で初めて、3Dプリンティングで製作された義手を装着した少女となりました。これに要した費用はわずか100豪ドルでした。
  
この実績は、恐らく他の多くの人にも影響を与えていくものと思われます。最近、ある生化学装置メーカーが3Dプリンティング技術を採用したOsteoFab特定患者専用フェイシャルデバイス(OPSFD)の認可を受けたことが発表されましたが、これはアメリカ食品医薬品局(FDA)が認可した最初で唯一の3Dプリンティングによるポリメリック顔面インプラント技術です。3Dプリントで様々な部位を作ることによって、患者ひとりひとりの解剖学的特徴にぴったり合わせた複製が可能となります。
  
一方で、3Dの「バイオプリンティング」を利用して生体組織や臓器を作ることには、自然の秩序に逆らうという考えを含めた倫理観についての検討の必要性も付随してきます。そこで、「規制を拡大するべきか」あるいは「この技術の人体への応用を禁止すべきか」という命題が問われることとなります。この考え方に反対する立場からの議論として、人口が増加傾向にあり医療水準が十分でない発展途上国においては、経済的に手の届く義肢やその他医療器具に対する高い需要があるという現状が挙げられています。医薬品の規制当局による認可待ちの状態ではありますが、今後は3Dプリンティング技術を利用して股関節インプラントや歯科補綴をセラミック素材で製造することに対する需要が高まっていくものと思われます。
  
医療産業以外でも、航空宇宙、自動車、消費財、建築、エレクトロニクスといった分野で3Dプリンティングは幅広く利用されています。ラックス・リサーチ[1] によると、世界の3Dプリンティング産業は2025年までに現在の4倍相当となる120億米ドルにまで成長すると予想されており、これは保険業界にとっても軽視できない技術となります。
  
3Dプリンティングはリスク状況をどのように変えるか?
  
3Dプリンティングはすでにリスク状況を変化させています。技術の発展は今後リスク状況を拡大する一方であり、リスクマネージャーと保険会社は常に気を抜けない状況になっています。
  
技術の進歩に伴い、3Dプリンティングは宝石や玩具を作るために使われるだけでなく、安全性を問われる物品の製造にも使われることが予想され、不良品のリスクも高まる可能性があります。
  
世界的に見ても、すでに著作権の侵害や、武器およびその部品に関する許可などについては、規制が敷かれています。2013年、米国の団体Defense Distributedは、eBayで購入した3Dプリンターを使用して製造したプラスチック製の銃の実弾テストに成功しました。この団体は自らのウェブサイトに設計図を公開していましたが、後に米国政府からその削除命令が出されました。しかし設計図のコピーはすでにパイレート・ベイなどのファイル共有サイトにアップロードされていて、人々のアクセスを止めることはできませんでした。
  
3Dプリンターやスキャナー、3Dモデリング技術の大幅なコストダウンと性能の向上が合わさることは、知的財産の盗難リスク拡大を意味しています。技術の急速な進歩を踏まえ、私たちはコミュニティーとして、テロリズムを含めた新たなリスクの台頭やリスクの拡大に直面する可能性が高まっており、武器などの危険な3Dプリンティング製品へのアクセスを制限するなど、規制の中で慎重に対応していかなければなりません。
  
品質に関しては、3Dプリンターによる完成品の精度をコントロールすることはできません。また、使用される原材料の質に関するリスクも存在しており、今後使用される可能性のある素材の新たな組み合わせについての試験もまだ適切に行われていません。
  
フィンランドのヘルシンキにあるアールト大学とナノセーフティ研究センターが行った最近の研究によると、一般家庭での3Dプリンティングの使用は健康に支障をきたす可能性があることが明らかになりました。3Dプリンターにはプラスチックを溶かす可能性のあるフィラメントが使用されており、換気を十分に行わないと、製作過程で機械から発生するガスにより健康を害する危険性があると指摘されています。
  
法的な枠組み
  
製造物責任法は、「業として」製品の製造・販売を行う者[2] にしか適用されません。「業」とはみなせない販売者、例えば個人的にジャムを作って売る人やレモネードを作って販売する子供、今回の場合であれば3D発明の愛好家などは、現行の製造物責任法制の適用外とされる可能性があります。保険業界にとっては、住宅所有者賠償責任保険が今後この新技術をどのようにカバーしていくのか、あるいは除外していくのかを検討することが、これからの関心事となるものと思われます。
  
3Dプリンティングが製造業に普及していくにつれて、今後対応していかなければならない大きな課題のひとつとして注意義務の確立が挙げられます。つまり、「製造物を使用した結果生じた問題の責任を誰が取るのか? それは設計者なのか、プリンターのメーカーなのか、原材料の納入業者なのか、あるいはエンドユーザーなのか?」という問題です。製造物責任の訴訟については、これらの異なる利害関係者の間で寄与度および責任割合がどうなるのかという点が問題となり、今後ますます複雑化する可能性があります。この点についても、恐らく判例の集積が長く待たれることになるでしょう。
  
保険会社にはどのような影響があるのか?
  
非常に高い確率で、この技術の発展は保険業界へ影響するものと思われます。この新興技術のリスクを担保する新たな保険商品が生まれる機会が生まれる可能性も十分あります。
  
このエクスポージャーの特定と保険引受を行う上で、以下のポイントが検討事項となります。

  • 影響を受ける保険種目:リスク状況の変化の影響を受ける保険商品として、一般賠償責任、製造物責任、個人賠償、環境汚染賠償責任(EIL)、リコール費用保険、テロリズム保険などが挙げられます。保険会社はこれらの商品の評価およびコスト計算の際、変化するリスク状況について理解する必要があります。
  • 例えば、「3Dプリンターや3Dプリンターで作られた製品を使用しますか?」といった質問を入れるなど、3Dプリンティングリスク特定のために告知書の内容を変更することも可能です。
  • 建設業界:現場で3Dプリンティング関連コンポーネントを扱う建設業者のリスクは、もともとリスクが高まりつつあるセグメントとされる建設賠償責任のリスクを高める可能性があります。その場で仕様通りに製作できる3Dプリンティングは建設業界でも人気が高まっており、保険業者もこの業界のエクスポージャー分析に3Dプリンティングを含めた方が良いものと考えられます。
  • 広告賠償責任(権利侵害):場合によっては、企業総合賠償責任保険の広告賠償責任の中に著作権侵害も担保対象として含まれることがあります。被保険者が3Dプリンティングを利用する場合、3Dプリンターの使用による著作権侵害が巨額の保険金請求に結びつく可能性があるため、保険会社は注意しなければなりません。
  • 効能不発揮責任にかかわる免責条項:「保険的に「効能不発揮責任」とは、製品またはサービスが意図された機能を果たさなかったために第三者に生じた身体障害または財産損壊に起因する法律上の賠償責任のことを指します。3Dプリンティングで製作された製品の品質に疑問が残る場合、製品の不具合が問題となる可能性があることを考えると、保険会社はこのリスクの対応に際して効能不発揮責任にかかわる免責条項が適切であるかどうかを再検討する必要があるかもしれません。

3Dプリンティングの先を考える… 次は4D!
  
2014年、3Dプリンティング産業は新しい次元へと進化しました。4次元プリンティングです。これは付加製造(AM)工程を利用して作られた製品を、環境の変化に応じて操るものです。例えば、この技術によって衣服や靴などの製品を湿度や温度に反応させることができるようになります。つまり、環境の変化に反応して形や機能を変化させるのです。
  
3Dプリンティングによって想像力がかきたてられたところで、この新たな次元が加わることで方程式にどのような変化がもたらされるのか、是非考えてみてください。


[1] Lux Research (独立調査会社)
[2] 製品の販売・流通を行う業者

2015年4月


パーフェクト・ストーム?

「パーフェクト・ストーム」とは、想定外の状況が重なり、最悪の事態に至ることを指します。2010年以来、アジア太平洋地域を襲った一連の大規模災害は確かに異例でしたが、結果として何が起こるかについては、未だ疑問が残されたままです。

Read the whole story

スイス・リー・グループ創立150周年:日本におけるスイス・リーの沿革

Read the whole story