災害リスク・ファイナンス — パラダイム・シフト

スイス・リー 経済調査・コンサルティング部アジア・チーフ・エコノミストであるクラレンス・ウォンが、増大する災害対策費用を事前管理するために不可欠な官民のパートナーシップについて論じます。

アジア太平洋地域がまたも自然災害による甚大な被害を受けました。2009年10月までの3か月間に、台風8号(モーラコット)が台湾を襲い、中国沿岸を大きな混乱に陥れました。その後、非常に強力な2つの台風がフィリピンを襲撃しました。また、大規模な地震がインドネシアのスマトラ西部を揺るがし、深刻な津波がインド南部を襲い、地震と津波がサモアを直撃しました。

これらの自然災害は、広範囲にわたる損害をもたらし、政府予算にとっても大きな負担となりました。しかし同時に、被災地を速やかに復旧させるためには、被災前の持続可能なリスク・ファイナンスの手続きが必要性であることを私たちに認識させました。

自然災害による影響の拡大

過去20~30年にわたり、自然災害の増加は実質的にすべての国に影響を与えてきました。スイス・リーのシグマ調査、「2008年の自然災害と人災」によると、2008年は自然災害、人災とも最悪の水準で、経済損失は総額2,690億ドルに上り、24万人以上の人命が奪われました。最も大きな被害を受けたのはアジアでした。このような大災害の損失のほとんどは付保されておらず、経済的損失と保険支払いのギャップは拡大しています(図表1参照)。

新興地域は、不十分な都市計画、高い人口増加率、環境の悪化などにより、災害に対して特に脆弱です。さらに、リスクは自然災害に最も大きくさらされている地域、たとえば沿岸地域などに集積しています。しかしこのような地域の保険普及率は通常非常に低い状態です。

災害前のリスク・ファイナンスの必要性

自然災害が社会や経済に与える甚大な影響を考慮して、国の包括的な災害管理政策は世界中で重要性を増しています。

このような政策は災害に対する備えや救済、災害の予防や緩和に対処するものです。災害の規模が大きく、リスク・エクスポージャーが増大しているため、「事後の」リスク・ファイナンス、すなわち災害発生後のリスク・ファイナンス(債券の発行、増税、国際支援への依存など)は持続不可能になりつつあります。そのため、利用可能な資金と災害後の必要資金とのギャップが拡大しています。結果として、損害およびそれに関連する必要資金を最小化するために、自然災害管理において事前のリスク管理・被害軽減策が最優先されるようになっています。

リスクの管理には、リスクの全体像を理解することが重要です。災害は、低リスク(「頻度が高い/深刻度が低い」)または高リスク(頻度が低い/深刻度が高い)に分類され、いずれのカテゴリーに対しても特定のリスク管理戦略と潜在的なリスク移転/資金調達ソリューションが必要です。政府の観点からは、高リスクに分類される自然災害を効果的に管理する必要があります。政府は、既存の保険会社や再保険会社にリスクを移転したり、キャットボンドを発行したりすることができます。あるいは、リスクをヘッジするためにデリバティブその他の金融商品を購入することもできます。図表2は、さまざまな損失ファイナンスのメカニズムと商品の概要を示しています。

再/保険は、とりわけ広く採用されているリスク・ファイナンス・ツールです。しかし、一部の新興国の保険市場は依然として十分に発展しておらず、成長するには長い時間がかかります。その点で政府の強力な後押しが必要です。

現在では、資本市場ソリューションやさまざまな再保険契約により、リスクの軽減と管理を資金面で後押しする革新的な方法を利用することができます。このようなメカニズムは、従来の保険を補うものであるため、保険がまだ十分に発達していない新興国にとっては特に有効です。

その役割は以下の通りです。 <7p>

 

  • 復旧および再建期間における必要資金の確保
  • 保険予算の確保と変動の軽減、あらかじめ定められた保険料による予算の確実性(特に複数年契約の場合)の向上
  • 返済義務がなく(ローンとは対照的)、他の重要なプロジェクトから災害関連分野に資金を移動させなければならない事態を回避

 

リスク・ファイナンスにおける官民のパートナーシップ

災害リスクのファイナンスと効果的な削減には民間セクターと公共セクターの共同の対応が必要です。複雑さとコストが増大するにつれ、どちらか一方だけでこの難題に対処することは困難になっています。これは、資金不足にもかかわらず、頻度と深刻度を増す自然災害に対処しなければならない新興国にまさに当てはまります。さらに、リスク・エクスポージャーの集積が進むにつれ、将来の災害のインフレ調整済みコストは政府の限られた予算をはるかに超える可能性があります。

官民のパートナーシップは、特に再保険との資本市場ソリューションが関与した場合には、災害計画の改善ならびに関係機関が気候変動の影響に対して準備することを可能にします。また、リスク認識の向上や、さまざまなリスク移転メカニズムを利用した共同ソリューションを推進することも可能です。

リスク予防、リスク移転およびファイナンスには、以下のソリューションがあります。

♦ リスク予防のためのパートナーシップ

保険会社には、リスク予防手段を特定するために必要な専門知識があり、そのような手段を実施する場合により魅力的な保険料を提供することができます。一方、建築基準法、消防法等のリスク予防手段の実施やファイナンスについては、公共セクターの方が効果的に行うことができます。

♦ リスク移転とファイナンスに関するパートナーシップ

政府は、市場メカニズムが機能できるようにする法的枠組を作り出すことによって重要な役割を果たすことができます。保険が適するか否か難しい場合があることを考慮すると、公共セクターは各取引において異なる役割を引き受けることが考えられます。

公共セクターは、例えば次のように関与することができます。

 

  • 非常に重要なエクスポージャー・データの収集を伴うリスク移転ソリューションの開発。それを行う中で、政府は再/保険会社の支援とノウハウを引き出すことができる。
  • 個人と法人のリスク移転ソリューションの入手可能性の拡大
  • 最終手段として事実上の保険提供者となり、全国規模の損害カバーを支援。また、国際的再保険や資本市場ソリューションを利用してリスクを移転するために、民間セクターとパートナーシップを締結することが可能。
  • 災害直後の救済と緊急対策から生じる費用の移転。予算上の確実性と災害後の債務水準の低下が主なメリット。

 

全体として、このようなパートナーシップは、増大する災害対策費用の管理において重要な役割を果たし、公共セクターが前もって災害対策資金を調達することを可能にします。これはまた、政府が公共の資金調達に大きな負担をかけずに、またより少ない費用で救済を行えるようにするための有効な方法となるのです。


Swiss Re Property and Specialty

Swiss Re Property & Specialty's seasoned professionals provide clients with a broad range of premium products, unmatched offers and tailored solutions. Closeness to the markets and an unrivalled and thorough...

Read the whole story

Expanding flood insurability in...

Frequency and severity of flood-related natural disasters in Italy has increased over the last decade. While this should sound some alarm in a natural hazards-prone country like Italy, insurance penetration...

Read the whole story