製品リコール-全メーカーに迫り来る脅威

ある中国メーカーの品質管理部のマネージャーであるビンセント・チェンは、手際よく、深川工場の製品監査のチェックを行なっていました。彼の電話が鳴り、会社が最も危惧していた問題が起こりました。会社が製造した製品によって負傷者が発生し、さらに、この製品と同じバッチで生産された製品に、内部欠陥がある可能性も報告されたのです。これ以上の負傷者を出す前に、早急に欠陥製品をリコールすることが不可欠です。ビンセントには、2010年7月1日に発効された中国不法行為法(tort law) が頭をよぎりました。この法律によって、欠陥が明らかになった製品に必要な対処をせず、生産、販売したことにより発生した深刻な対人事故に対して、無制限の懲罰的損害賠償金を課すことが出来ます。

こうした製品による事故は、広範囲かつ連鎖的に、業務に影響を及ぼします。損失と企業評価への悪影響を最小限に抑えるためには、迅速かつ徹底されたリコールの遂行が非常に重要です。リコール保険は、こうした事故に対する危機管理において重要な役割を果たし、保険引き受けと、支払いに関しては、専門的な知識が必要となります。

ここ数年の間にも、おもちゃ、ノートパソコン、電池、タイヤ、ペットフード、薬品など、様々な製品の大規模リコールが実施されました。自動車など比較的大きな製造物は、安全性が不可欠であるため、製品の欠陥は非常に深刻な問題です。またその企業がリコールをどのように遂行したかによって、政府や規制当局の捜査の対象になることもあり、その結果として多額の罰金を課せられることもあるのです。メディアによる報道が増えれば、消費者からの信頼を失うだけでなく、莫大な損失額が生じる可能性もあります。そのため、リコールが原因で、過去には会社が倒産した、または倒産寸前になったケースもあります。

自主的または強制的なリコールの際に、事業の中断と企業評価への悪影響を最小限に抑えるためには、以下のプロセスを踏むことが重要です。

  • リコールの公表
  • メディアへの情報提供
  • リコールのための物流環境の整備
  • 事故の原因の特定
  • 他製品への影響の評価
  • 製造過程・設計の修正
  • リコール対象製品の修理

2011年、アジアでは製造業市場が成長を続けており、海外輸出は大きな割合を占めています。それに伴い、製造物責任リスク、そしてメーカー、輸出入業者および販売業者による製品リコールはどちらも増加の傾向にあります(図表1の日本製品事故と、図表2の中国自動車リコールを参照)。

多くの先進国の規制当局は、輸入製品の精査・規制を強化し、品質基準を引き上げており国内の製品リコールの責任をメーカーに負わせています。韓国では、2011年の始めに、国会が、製造業者に対して欠陥製品の回収、撤去・除去、修理、破棄の責任を負わせる法律を制定しました。中国、日本、およびその他のアジア諸国も、継続的に製品安全体制の強化に取り組み、リスク管理やリスク移転の仕組みへの関心を高めています。中国など一部の市場においては、リコール保険は輸出業者/販売業者のみが必要とする場合が多いため、リコール保険を購入しない企業も多く、需要は限定的ですが、リコール保険は、アジアやその他の市場で非常に大きな可能性を持っており、多くの国で販売が本格化しています。

図表 1. 日本における製品別事故件数の年度別推移

出典:独立行政法人製品評価技術基盤機構

図表 2:中国における自動車リコール年度別推移



出典:中華人民共和国国家品質監督検査検疫総局

国によっては、多額の損失が生じる可能性があるため、アジア諸国における保険の入手可能性と担保される事故は、大きく異なります。各国の国内保険会社はリコール保険を特定の企業に対してのみ提供していることから、海外の保険会社の参入も増加しています。単独でリコール保険を購入する以外にも、以下の費用・事故を補償することが可能です。

  • リコール費用-賠償責任保険に特約として付帯できる
  • 偶発的な異物混入事故 (ACI:Accidental Contamination Insurance)-製品の製造、準備、梱包、流通過程における、偶発的な異物混入、または不適切な表示。
  • 悪意による異物混入事故(MPT:Malicious Product Tamper)-内部および外部からの製品への悪意ある改ざんや異物混入。これには異物混入による脅迫を含む場合もあります。

リコール保険は、対象製品が不適切、または使用・消費するには危険とみなされた場合、また、傷害や損失をもたらした、またはもたらす可能性がある場合が、支払いの条件となります。責任限度額も条件によって異なります。

担保業種

担保内容

責任限度額

免責金額

補償内容

日本: 

食品業
  - 輸出入業者
  - 製造業者
  - 卸売/小売業者
  - 梱包業者

以下の事由によるリコール


- 対人事故の可能性がある場合
- 不適切表示
- 残留殺虫剤・農薬

- 1000万円
- 2000万円
- 3000万円
- 5000万円
- 1億円

責任限度額の1%

  1. 消費者への通知/広告にかかる費用
  2. 欠陥製品の確認/交換にかかる費用
  3. 返金にかかる費用
  4. 代替品の発送費用
  5. 追加の倉庫・保管費用
  6. 追加の人件費
  7. 在庫廃棄費用
  8. 遺失利益 (オプション)

中国: 

自動車製造業

家電 製造業

以下の事由によるリコール

 

- 部品や材料の偶発的な欠落

- 部品や材料の偶発的な混入・差し替え

- 設計、製造、梱包、調合、混合、表示または保管に関する、被保険者による間違い

- 実際の、申し立てられた、脅かされた、意図的または悪意ある変更

 200〜300万ドル

1万〜5万ドル

  1. メディアへの通知にかかる費用
  2. 交通費および宿泊費
  3. 追加人員雇用費用および従業員の時間外手当
  4. 保険対象の製品の輸送費用
  5. 追加の倉庫賃貸費用
  6. 在庫廃棄費用
  7. リコールの開始日から12ヵ月以内に発生した費用の最高額

 

韓国: 

食品業

- 監督機関からの指導による回収

- 保険対象製品の欠陥、対人事故または物的損害に対応するため、被保険者による自主回収

  200〜300万ドル

 10万ドルよりかなり低い

  1. メディアへの通知費用
  2. 保険対象製品の輸送費用
  3. 追加人員雇用費用
  4. 被保険者の正規従業員へ支払われた時間外手当
  5. 追加の倉庫・保険場所の賃貸費用
  6. 在庫廃棄費用
  7. 卸売業者、流通業者、小売業者またはその卸先に対する返金や賠償費用
    または
  8. 保険対象製品を修理、交換、再配送するための費用

オーストラリア: 

食品業
家電製造業
その他

リコール費用

500万豪ドル

それぞれ異なる

  1. リコール費用
  2. 交換費用
  3. 修理費用
  4. コンサルタント・アドバイザー費用
  5. 脅迫やゆすりに対する費用 
  6. 遺失利益

悪意のある異物混入

1億豪ドル

偶発的な異物混入

1500万豪ドル

リコールされる製品の種類は、国と需要によって大きく違います。食品・飲料、自動車とその部品、美容・健康製品、薬剤、電気機器、おもちゃなどがリコール対象となることが多いものの、どの製品もリコールの対象となる可能性があります。賢明なメーカーとサプライヤーの取るべき行動は、適切なリスク管理を行い、リコール計画を整え、再保険会社からプロテクションを購入している保険会社を選び、その会社から保険を購入することです。そうすることで、お客様に安全に製品を提供し、信頼を獲得し、事業を確実に展開することができます。

前述のビンセント・チェンのオフィスでは、問題が検討され、「リコール委員会」を召集することが決まり、ビンセントは、その会議で状況を説明するための準備をしています。彼の会社では準備が万全だったおかげで、確実で有効性の高いリコールプランが実施されました。

2011年8月

 


1)

日本:
http://www.consumer.go.jp/recall/
http://www.meti.go.jp/product_safety/recall/index.html
http://www.tech.nite.go.jp/AcSearchE/ASP/index.html

中国:
http://www.dpac.gov.cn/

韓国:
http://english.mltm.go.kr/intro.do
http://eng.kfda.go.kr/index.php

オーストラリア:
www.recalls.gov.au