自然災害の軽減:もっとできることは?

SRの「Mind the Risk」という出版物の調査報告が、日本のメディアであるNHK、読売新聞ならびに朝日新聞に最近取り上げられました。その内容は、東京・横浜といった日本の主要都市が地震被害に見舞われる可能性が、世界の他都市と比較して非常に高いという調査報告の紹介です。

阪神淡路大震災から20年という節目、ならびに東日本大震災から4年経過し様々な検証が行われるなかで、この調査報告は大きな興味をもって取り上げられました。特に、日本の主要都市が、今後も地震により非常に大きな被害を受ける可能性があるという内容は、神戸や東北の震災経験からも理解に難くないと同時に、震災後に非常に盛り上がった復興活動が徐々に落ち着くなか、今後の地震対策にこの震災の教訓をどう活かしていくかという議題を提示しました。

メディアの方々とのインタビューを通して度々挙げられた質問は、近年を代表する都市災害となった阪神淡路大震災から20年経ち、その後、人々の震災への知識や準備、被害軽減に向けた活動が継続するなか、日本の都市は、なぜ高い震災リスクにいまだ見舞われているのかというものです。

残念ながら、この質問に的確に答えることは容易ではありません。自然災害被害を効果的に減らすため、物理的な被害軽減対策や保険を活用したリスク移転を含め、各都市でどのように適応し、どう優先順位付けしていくか。「Mind the Risk」の続編に期待したいところです。

先月、仙台市で開催された第3回国連防災世界会議は、まさに自然災害の被害軽減策を公開討論する格好の舞台となりました。3日に及ぶ会議では、ジュネーブ協会と東京海上日動火災主催による「災害課題の解決と被害軽減に役立つ保険」と題したパブリックフォーラムも開催され、多くの保険業界関係者や行政担当者、ならびにNGOの参加を得て、この社会的な課題に向けた保険メカニズムの有効活用について議論がおこなわれました。SRからも日本支店代表のスティーブ・アローラがパネルディスカッションのモデレーター、政府との協業を促進するグローバルパートナーシップ、アジア部門長のイヴォ・メンジンガーが、パネルディスカッションのパネリストとして参加しました。主要な議題は、災害後の迅速な社会復興という課題を解決するため、いかに保険業界の知識を今以上に活用できるか、というものでした。

5時間に及ぶパネルディスカッションと質疑応答を経て、個人的に重要だと思われるメッセージをまとめてみます。

まず第一に、保険業界の参加は、公共的な災害課題を飛躍的に解決するきっかけ、ならびに社会インパクトをもたらすと、政府・公共セクターは広く認識するようになったことです。争点は、保険業界がリスク転嫁のみならず、行政、NGO、NPOと協同して被害軽減についてもリーダーシップを発揮できるかです。保険の価値は、保険証券の発行とリスクの移転から始まるとしつつ、政府・公共セクターは業界に対して、それ以上の大きな期待を寄せています。

例えば自然災害リスクについて、保険業界以上にリスク集積情報を詳細に把握している機関・団体があるでしょうか?保険業界は、どの地域に集積が進み、またどこに集積が移動しているか把握しつつあります。また、どの地域で付保が十分でないか調査することができます。(ただし、リスク集積情報の十分な透明性に向けては業界も発展途上ではあります。例えば、タイ洪水が起きたとき、その洪水に見舞われるすべての物件を把握する事は容易ではありませんでした)。集積データフォーマットは標準化され、地理的な集積情報の時間変移が把握できるようになったため、商業・公共利用がより促進される可能性があります。

また、自然災害分析モデルの開発に着手し、実用的なモデルに発展させ、実際のリスク引受け判断の際に活用しているのも保険業界です。保険会社のアンダーライターは、自然災害リスクの大小をはっきり見分けることができます。ある場所の物件を填補するのに必要な保険料をはじき出したり、さらには、被害軽減策に講じた投資に対していくら保険料低減のメリットが見込めるか計算することもできます。

ただ、こうした保険業界のリスク集積情報、自然災害分析モデルの専門知識、そしてリスク引受け能力を被害軽減対策に振り向けるためには、いったい現在何が可能で、今後何がおこなわれ、さらに何をなすべきかという疑問は残ったままです。

ここからは私見も入りますが、その答えとして、まず保険会社はイノベーションを通して、自然災害保険で填補しうる商品内容・範囲の拡大、さらには付保を進めるための需要を喚起することができると思います。(例えば、地震リスクが保険の免責対象から外れ、今日のように一般的な保険商品になる事は、50年前一体誰が想像したでしょうか)。また、被害軽減策を施し、リスクの減少が達成された物件に対しては、保険料低減という明確なインセンティブで応えるという重要な責務を果たすことができます。さらには、効果的な被害軽減策を講じてもなお残る巨大災害や想定外のリスク(residual risk)については保険会社が積極的に引受けしていくことで、保険会社も事業が拡大する可能性があります。

被害軽減へのリスク・コンサルティングは、保険会社が個人、財物ならびに企業へ保険提案するときに実はすでに培ってきた能力であります。こうした専門的なコンサルティング能力が個人・企業レベルからインフラストラクチャーや都市レベル、さらには地域的・世界的な政府活動へ拡げられない理由はありません。東日本大震災の経済損害2,100億ドルのうち、保険でカバーされた金額は360億ドル(SR推定)。実に83%の経済損害は保険では填補されず、個人、企業、政府による資金捻出でカバーされたことを考えると、事前の被害軽減に向けた保険会社の役割がより重要になっていると認識せざるを得ません。

もっとできることがある。そう思いませんか?

2015年4月


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出典: 保険毎日新聞2017年10月30日

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